2026-03-12
eスポーツはスポーツと呼んでいいのか?
eスポーツはスポーツなのか?という問いを、定義と学術論文から考える
eスポーツはスポーツと呼んでいいのか?
eスポーツはスポーツなのか、それともスポーツではないのか。
名古屋で開催予定のアジア競技大会では、eスポーツが正式種目として採用されています。
また、最近では街中でも「eスポーツ」という言葉を見かける機会が増えてきたように感じます。
しかし、そもそも疑問があります。
ゲームをプレイすることは、スポーツと言えるのでしょうか?
指先でコントローラーやキーボードを操作し、画面の中のキャラクターを動かして競う。
それはスポーツなのか、という疑問はもっともなものだと思います。
私自身もこの点に少しモヤモヤしていたので、スポーツ哲学や学術研究を調べてみました。
eスポーツとは何か
まず、eスポーツとは何かを確認してみます。
「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称です。
出典:一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)公式サイト「eスポーツとは」
つまり、eスポーツとは
ゲームを競技として行う活動
を指す言葉です。
ただし、この定義は比較的広いものであり、
「それは本当にスポーツなのか?」という疑問は残ります。
eスポーツはスポーツではないという主張
この問題は、実は学術界でも議論されています。
その代表的な論文がこちらです。
Jim Parry (2018)
“E-sports are Not Sports”
この論文では、結論として
eスポーツはスポーツではない
と論じられています。
その理由は、スポーツの定義にあります。
Parryはスポーツ(特にオリンピックスポーツ)を次のように説明しています。
オリンピック競技は、制度化され、ルールに支配される、人間の身体能力をめぐる競技である。
つまりスポーツとは
- 制度化されている
- ルールがある
- 身体能力が競技の中心である
という特徴を持つとされます。
この観点から、eスポーツは
- 直接的な身体性が弱い
- 全身的な身体技能が競技の中心ではない
という理由で、スポーツには該当しないとされます。
また論文では、eスポーツについて次のようにも述べています。
直接的な身体性を欠き、決定的な全身制御や全身技能を活用せず、人間全体の成長に貢献できない。
このように、身体能力の関与の弱さが主な理由として挙げられています。
ただし、この論文には注意点があります。
Parryの議論は、基本的に
「スポーツ=オリンピック競技」
という前提に立っています。
そのため、
- オリンピックではない
- あるいはオリンピック的身体競技ではない
という理由で、eスポーツをスポーツから除外している面があります。
とはいえ、この論文でも
eスポーツが「競技」であること自体は認められています。
本当に身体性はないのか?
一方で、eスポーツには身体性がないという主張にも反論があります。
例えば近年では、eスポーツにおける生理学的な研究も進んでいます。
代表的な研究としては次のようなものがあります。
Tholl C, Soffner M and Froböse I (2024)
How strenuous is esports? Perceived physical exertion and physical state during competitive video gaming.
Frontiers in Sports and Active Living
この研究では、競技中のプレイヤーの
- 心拍数
- 身体負荷
- 疲労感
などが分析されています。
つまり、eスポーツは完全に身体と無関係な活動ではなく、
一定の生理的負荷を伴う競技
として研究され始めています。
こうした研究が進めば、
「身体性がない」という認識は今後変わっていく可能性があります。
そもそもスポーツとは何か
ここまで見てくると、問題は次の点に行き着きます。
そもそもスポーツとは何なのか?
もしスポーツを
- 身体運動を伴う競技
と定義するなら、eスポーツは含まれないかもしれません。
しかしスポーツを
- ルールに基づいた競技
- 技能を競う活動
と広く定義するなら、eスポーツもスポーツに含まれる可能性があります。
つまりこの問題は
eスポーツの問題というより、
スポーツの定義の問題
でもあるのです。
まとめ
eスポーツがスポーツかどうかについては、現在も議論が続いています。
- スポーツは身体能力を中心とする競技だという立場
- eスポーツも高度な技能競技でありスポーツだという立場
この違いは、最終的には
スポーツをどう定義するか
という哲学的問題に関わっています。
技術の進歩とともに、
私たちの「競技」や「スポーツ」の概念も変わっていくのかもしれません。
eスポーツがスポーツなのか。
この問いは、意外と簡単には答えが出ない問題なのです。
参考文献
Jim Parry (2018)
“E-sports are Not Sports”
Tholl C, Soffner M and Froböse I (2024)
How strenuous is esports? Perceived physical exertion and physical state during competitive video gaming.
Frontiers in Sports and Active Living
https://doi.org/10.3389/fspor.2024.1370485